事業の永続性 営業雑感NO.256

 前回、ノルマによる成果主義への偏重が企業経営を危うくする可能性が高いことについて、お話ししました。今回は、成果主義に少し関連しますが、企業の永続性について私見を纏めます。

 以前にもお話をしましたが、我が国は「創業○○年」という事業の永続性を重視する珍しい傾向があります。しかしながら、最近は、その傾向も段々と薄れてきたように思います。そればかりか、長く継続しているだけの企業を古い経営体制を持つとして退場を促し、事業拡大をしている新興企業への人財の供給源とするような、人財の流動性を高める政策を進める機運すら見受けられます。

 一方で、企業の継続性をうたいM&A(合併(merger)&株の買占め(acquisition))型の事業継承の推進もしています。昭和時代には、世間にはよく知られていなかったM&Aをビジネスとする投資会社も今ではよく知られる業種となりました。事業継承といいますが、誰の為の事業継承かといいますと投資会社といわれるように株主利益を優先しています。しかしながら、企業のステークホルダーとしては、顧客と従業員も株主同様に重要な役割を担っています。

 小生としては、M&A型の事業継承ではなく、事業の永続性を狙った事業継承を見直すべきと考えています。その為に、最も大切なことは、事業が生み出している付加価値を明確にすることだと思います。以前、業務の付加価値を考える際に「付加価値はアウトプットに宿る」というお話をしましたが、事業の付加価値とは、お客様に提供している商品に宿っています。よく町工場における後継者育成として「技の継承」が話題になります。「技の継承」とは付加価値継承の端的な例だと考えています。町工場においては、技という形で付加価値が明確になっていますが、企業においては、技ほど明確にはなっていません。しかし、企業が存在している限り、お客様とお客様に提供している商品はあります。お客様の求めるものとしての商品に付加価値が宿っています。この付加価値を言葉として明文化しておくことが重要と考えます。「誰をお客様として何を提供しているのか?」です。企業ビジョンとして掲げておられる企業も多いです。

 尚、様々な分野で事業展開をされている場合は、事業毎に定義する必要があります。その際に考えておくべき事が「本業」です、昭和の時代の経営学においては、事業を広げる手法として多角化という概念が一般的でした。多角化において留意すべきとされたのが「本業」から離れないということでした。小生は、「本業」とは、事業付加価値の中で、最も重要な付加価値と定義しています。

 少し横道にそれますが、ソニー社についてですが、元々は家電メーカであったソニーが今でも大企業として存在している背景として、早期の段階で、ソニー銀行やソニー証券など金融業に手を出して成功していることが挙げられています。又、電気製品製造事業が低迷していることで本業を忘れたという批判も出ています。では、ソニーの本業とは一体何なのでしょうか?創業からの事業でいうと家電製品ということになります。一般的に家電製品であれば、消費者の家事を助けるという付加価値を提供することになりますが、ソニーが強かった商品といえば、ビデオ・ウォークマンなど家事とは少し離れていたように思います。その意味では、消費者に夢や楽しみを提供すると付加価値を定義していたのではないか?と推察しています。そして、それを本業としていたのであれば、金融業も本業の一環といえます。米国コロンビアの買収などもそう考えれば納得がいきます。但し、何を通じて夢や楽しみを提供するのが、それぞれの事業でやや不明確であった為に、本業を忘れたという批判に繋がっているのではないでしょうか?

 上記のように、単純な事業継承ではなく、事業付加価値を明確にして、事業の永続性を考える時代がきていると思います。成果主義・株主優先・人財流動化など米国型資本主義に染まりつつある我が国の企業経営ですが、「論語と資本主義」から始まり、事業の永続性を重視した日本式資本主義を改めて見つめるべきと考えます。

以上

2023年7月30日 | カテゴリー : 閑話休題 | 投稿者 : csf-ishii