今回は、政策論争になっている昇給について考えます。給料が決定する仕組みについては「雑感NO.61 給料について」をご参照ください。今回の考察にあたり以下に要約します。
・企業における労務費は付加価値額から決定される。
小生が何度もお話をしている付加価値が給与の源泉となります。付加価値とは、売上から仕入・外注などの外部の支払う支出を差し引くことで計算されます。又、付加価値額から支払われる労務費については労働分配率としてあらわされます。
上記から昇給を行う為には、付加価値を増やすか、労働分配率を上げるか、で実現出来ます。更には、付加価値を増やす為には、売上を増やすことと、支出を削減することで実現できます。国会やマスコミで取り上げられています労働生産性を高めることは、支出を減らす手段として極めて有効です。
個々の政策に関する提言は、いろいろありますが、今の論調は、次のようになっているように思います。「日本企業の労働生産性が他の先進国に比べて低い上に、非生産的な企業を生き残らせる為に各種補助金を支払っており、労働者が衰退企業から興隆企業に移動出来ていない。従って、国内全体での労働生産性が上向かないので、給料が上がっていない。」この議論とは別に企業に早急な昇給をお願いしているとのお話です。
しかしながら、何か策をうったとしても労働生産性は明日から上がるというものでもなく早急な昇給の決め手にはなりません。経営判断で昇給を早期に実現するには、労働分配率を上げるしか手はありません。企業が初任給を上げたり、賃上げを表明したりしていますが、その根拠となっているものは、政策議論にある生産性の向上ではなく、労働分配率を上げているように思います。但し、労働分配率を上げた場合、付加価値向上を伴う業績拡大が見込めない限り継続的なものではなく一時的なものになります。その際の労務費増額の裏付けと原資は内部留保しかありませんので、大企業と中小企業との給与格差が拡大するものと想像しています。
一方で、これまで実施されてきたアベノミクスを付加価値向上の観点から評価をしてみます。
アベノミクスの柱である「円安傾向で輸出を安定させる」ですが、こちらは付加価値とは無関係です。円安で安く輸出品が販売できて売上が伸びたとしても、今まで付加価値が100円の物を為替差益で80円に値引きして売ったことと同じです。付加価値は増えていませんので、給料を上げることは出来ません。加えて、製造業を例にとりますと、為替の影響で売上が伸張するということは生産量を増やさないといけませんので、給料は据え置きながらより多くの労働者を確保する必要が出てきます。本来ならここで、生産性向上を考えるべきなのですが簡単にはいきません。そこで登場するのが非正規雇用者の活用です。ところが、非正規雇用の拡大は、経理的には労務費に計上されますが、厚生年金などの福利厚生費が発生することは稀ですので、実質は外注費の増加と同じです。いうまでもなく、外注費の増加は、付加価値を下げる方向に作用します。多くの輸出企業においては、為替で得た利益は、労働者に分配するのではなく、労務費に関係しない役員報酬や株主配当に分配し、最終的には内部留保として蓄えられることになります。経営者に向けては、安易な非正規雇用活用を推奨しながら、今更、生産性向上や昇給のお願いですから矛盾していると思います。尚、円安傾向が続くことにより、最も高価があると思われる経済効果は、売上拡大と緊密に関係する株価が上昇することでしょう。
小生は、企業において継続的な昇給を行う為になすべきことは、報酬制度の改革しかないと愚考しております。給与には、生活保障と会社貢献(業績連動)の二面性があります。多くの企業では基本給・職能給・役職給などの区分けに通勤手当・残業手当などの各種手当が存在しています。又、定期昇給という制度がありますので、初任給の決定にも前年度の初任給を超えることはありません。採用確保とリスキリングなどの「人財」活用を考える上でも、低金利からの脱却・エネルギー価格高騰・コロナ禍による働き方改革などの経営環境の変化を機会に、上記のような給与制度を原点にかえって一から見直すべきではないでしょうか?
以上