ジョブ型報酬 営業雑感NO.234

 今回から、前回お話しした人に拘る経営を考えるご参考として、人事制度に関する私見を纏めます。第一回は、最近になってマスコミでも盛んに取り上げているジョブ型報酬について考えます。

 ジョブ型報酬とは、欧米では古くからある労働報酬に対する考え方で、仕事の内容に応じて報酬が決まる方式です。例えば、経理・営業・IT、など職種で基本報酬が決まっています。従って、労働組合組織も我が国のように会社単位が基本で、一部業界や地域で連携しているものではなく、経理組合・営業組合などのように職種毎に分かれています。いうまでもなく歴史に登場したギルドはその前身です。従って、営業の専門家であれば、報酬が安いと感じれば、より高い報酬を保証される別の会社に転職することになります。

 日本にはなじみの無かったこの報酬制度の導入を最初に政界へ働きかけたのがリクルートの江副氏だったと思います。この実現の為には、当時の労働基準法、会社法など、経済に関する様々な法律を改正する必要があり、リクルート疑獄の中身は、この大きな報酬制度改革を訴えていたのでは?と勘ぐっています。その後も、リクルートはこの考え方を踏襲しており様々な就職に関する事業と、就職紹介で使用されるマッチング技術を応用した様々な紹介事業を展開しています。

 ジョブ型報酬に対する考え方としてメンバーシップ形報酬をマスコミは取り上げており、我が国の多くの企業がメンバーシップ型であると解説しています。小生は、我が国の伝統的な報酬制度はメンバーシップ型から一歩踏み込んだ家族型だと考えています。メンバーシップ型では、ジョブ型とは異なり同じチームの中で様々な職種に変わっていきます。この点は我が国の転勤制度に似ていますが、職種が変わる転勤は稀です。与党議員や一部評論家が「我が国の生産性の低さはジョブ型に移行出来ていないことに起因する」との論調がありますが、小生は、とんでもない過ちだと考えています。実態に合わない法制度で現状を打破しようとした結果だと愚考しております。

 そもそも、ギルドが君主に抵抗する仕組みとして発生した背景があるように、ジョブ型もメンバーシップ型も抵抗すべき君主に代わる存在として経営者を想定しています。欧米では、経営者と労働者とは独立して存在しています。アメリカンドリームともいわれておりますが、労働者階級にいる人が経営者になる為には、既存企業に入るのでは無く起業することによってのみ実現されます。以前にもお話しをしたように、血縁も学歴も関係無く新入社員として入社し社長になれるのは、日本型経営の特徴でもあります。

 我が国にもジョブ型報酬は存在しています。官僚制度はジョブ型そのものです。地方公務員においては職種変更もありますが、国家官僚では、外務・大蔵・経産など、省庁で完全に分かれています。厚生労働省や財務省など、一部、省庁合併によって職種の流動性も出ていますが、基本は変わっていませんし、キャリアとノンキャリの明確な分離は、経営者と労働者の分離と似ています。教職員、警察官、消防士、自衛官など、特定公務員もジョブ型といってもいいものだと思います。一時期、目の敵のようにされていました教職員組合に代表されるようにこれらの職種別組合は、ジョブ型労働組合と同じようなものだと愚考しています。

 労働流動化や退職に関する法改正、非正規雇用の多用などは、ジョブ型報酬制度の上に成り立っている法体系であり、ジョブ型特質を持っていた官僚制度を下敷きにしたものと愚考しております。非正規雇用も公務員から拡がっていきました。一方で、会社経営でも年功序列を悪と捉え目標管理を推進しましたが、目標管理も同一職種であれば評価基準を決めやすいジョブ型と相性のいい評価制度と考えます。会社経営は民間に任されていますが、経営者と労働者が完全に分離されていることを前提としたジョブ型報酬制度を想定した法改正は、日本型経営には当てはまらない法律と考えます。これらの政策が空白の10年を産んだ大きな失策だったと考えているのは小生だけでしょうか?加えて、今更、経営者の自発的努力によるジョブ型報酬制度への移行と言っているようですが、そもそも企業の形として、株主と経営者と労働者をどのように位置づけているかをあきらかしてから法改正を行うべきです。本質的な議論をせずに株主と経営者に有利な小手先の法改正だけをしてきたツケがまわってきていると愚考しております。ジョブ型に代表される流行に左右されることなく、自社の付加価値に根ざした仕組みを考える経営者の登場を期待しています。

以上