今回も誤送金問題に関連してITの進化に伴う振込業務の変遷を振り返ります。20年前ほどまでは、振込といえば銀行窓口に行って振込依頼伝票を書くのが当たり前でした。ATMで振込が出来るようになっても、銀行窓口では紙伝票が必要で紙伝票が無くなったのはここ数年のことです。
振込処理は、銀行側での処理だけでなく振込依頼側の処理にも大きく関係しますので、給与振込みを例に振り返ります。給与支払が個人への現金手渡しから銀行振込に変わったのは1970年代から一般化したと記憶しています。企業側で給与計算システムが普及するにつれ、受取り確認印を台帳に押したりしていた現金管理業務を無くす為に企業側で給与の銀行振込が普及しました。しかしながら、銀行側での受付処理はシステム化が遅れていましたので、振込伝票を大量に打ち出して人事担当者が銀行に持ち込んでいました。又、銀行振込の可能な銀行を企業が指定していることが一般的でした。
銀行側で給与振込の受付処理をシステム化する為に実施したことが振込受付システムの開発です。この頃は、銀行はどこもITシステムを自社開発しており全ての銀行において受付システムが稼働していた訳ではなく、受付システムの有無も銀行の企業競争の一つでした。この時、同時に開発されたのが企業の振込伝票を紙ではなくデータで受付るしくみで、各銀行システムに合わせて各社各様のシステムを企業に配布していました。従って、企業によっては銀行別に複数の振込データ作成システムを持っていました。給与計算システムでも銀行を指定してデータを作成していたものです。これにより振込に係わる銀行・企業双方での工数削減がなされました。
1980年代に入り、オンラインの普及が進みました。当時のオンラインとは、相互のITシステムをつなぐしくみで、電話回線の技術を使っており、相手先を指定して接続するしくみでした。又、データを伝送するしくみもコンピュータメーカでバラバラでした。銀行各社のシステムもバラバラ、データ伝送の方式もバラバラではITシステム間を結合してより高い効果が出せません。そこで、当時の通産省の肝いりで業界でのデータ交換を行う際の標準化の推進がなされました。銀行界においては、他業界に先駆けて全銀手順なるデータ伝送のしくみが業界標準として統一されました。ここに至って、銀行と企業との取引データの交換が自由に行える環境が整いました。しかしながら、ITシステムとITシステムを直接接続することはメーカ間の壁が有り、まだまだ難しい状況でした。テレックスに代わるしくみとしてフロッピーディスク装置同士をオンラインで接続してデータ交換をして、それぞれのITシステムには、双方のフロッピーで読み書きすることも一般的な時代でした。
1990年代に入りコンピュータメーカ間でのオンライン手順も標準化されシステム間のデータ交換は可能になりましたが、フロッピーディスクに納められたデータが一括して送られるようになっただけで、給与振込に関する業務において大幅な改善がなされた訳ではありません。それよりも、銀行における窓口業務の大幅な改善と工数削減がATMの導入によってなされていきました。振込においてもATMで利用者が振込伝票を書く代わりに、自分で情報入力をする仕組みに変わりました。尚、給与振込についても、上記のようなオンラインを活用するのではなく、今でも給与担当がATMに直接入力をしている中小企業も多いのでは?と推察しております。
2000年代に入りインターネットが普及したことにより、上記のような面倒なしくみが一気に解消されます。それは、銀行のホームページを活用することで、利用者は自分のパソコンで振込データを自由に作成し、銀行側はそのデータを取り込むことで、ATMまでも不要とすることが可能になりました。個人とは異なり企業は大量のデータを一括して処理をしますので、給与振込だけでなくあらゆる取引についてデータ交換の出来るしくみが構築されています。
2010年代からは、スマホの普及で様相は一変します。これまでは、購入や支払はクレジットに代表されるように月締めで決済されていました。ところが、スマホではその場で決済がなされます。銀行側もこれまでとは、全く異なる決済システムを構築する必要に迫られています。これ以降の話は、又の機会に譲ります。
簡単に振り返りましたが、振込業務に関しては、2000年以前と以後では、大きく異なっています。2000年以前に関しては、基本のしくみはフロッピーディスクでデータ交換したしくみと大きく変化していません。その意味では、今回の役所での不手際にはついては、以前お話をしたように旧システム運用に関する不備だと思います。加えて、フロッピーが残っている大きな理由は、役所側での振込データ作成システムが無いことに起因しているように思います。尚、役所のシステムは、未だにバラバラのままです。余談になりますが、某メガバンクのIT問題についても、80年代まで続いた各社バラバラのITシステムを統合している為と考えます。
以上