医療法人赤字問題 営業雑感No.96

 今回は、コロナ禍で話題にのぼっておりますコロナ対応を行った医療法人の赤字問題について解説します。本雑感No.82でも取り上げました医療法人の経営の特殊性を簡単に振り返ります。

 医療法人では、Product(製品)、Price(価格)、Promotion(宣伝)、Place(立地、流通)の販売戦略の基本となる4つのPが、法律や国・自治体の規制で大幅に制限されており、特に価格が自由に決められないことが大きいとお話ししました。価格だけでなく、病床数や看護師人数などにも基準が設けられており、基準をクリアしないと所定の金額がもらえないしくみになっています。検査についても、細かく規定がなされており、一回の診療で可能な検査回数や一度に出せる薬の量なども定められております。勿論、感染症対応についても診療機能が定められており、一般の病院がこれをクリアするのは難しい状況でした。当初、病床数がなかなか増えなかったのは、これが理由と思われます。

 そんな中でコロナ対応病棟などを新設するということは、従来の病院で申告していた病床数や看護師人数などの診療機能を変更することになります。この変更に対する補償がどうなっているのか?です。なんらかの便法が使われていると思いますが、自治体レベルに任されているような気がしてなりません。政府は、いち早く検査についても保険適用を行うと発表しましたが、これを実現するためには、新しい検査項目や検査に関する回数や使用薬剤についての価格を決定し、それを各医療機関が使用しているコンピュータシステムに全て追加登録・変更をする必要があります。その変更は、医療機関が同期をとって行う必要があり、通常ですと医療改定に合わせて4月に全国一斉に行います。改定作業には、病院の職員だけでなくシステムベンダーにも多大な工数をかけることになります。加えて、今の病院の請求のしくみは、毎月纏めて保険機構に請求していますので、システム変更のタイミングは、月一回しかありません。これは想像ですが、今の政府は、このような仕組みを理解して目途をつけて発表しているとは、とても思えません。政治主導の名のもとに、決めるだけ決めて後は現場に丸投げしているだけのように思えます。これらの仕組みを含めて大きく変える努力をしてこその政治主導ではないのでしょうか?ホテルなどの借り上げも、病床数問題をスリ変えた抜け道のように勘繰りたくなります。

 一方、病院が独自でコロナ対応を行うには、自費治療の枠を設けるしかありません。それにしても検査などが認可されないと現場では動けません。検査の判断が保健所に集中していた背景には、医療機関を縛る規定が改正されていないので、医療機関では、従来のやり方で診療を行うしかないという事情があったと思います。そんな中、各医療機関では、大部屋を無くす、窓口に仕切坂を設けるなど、独自の工夫と努力をしておられます。しかし、それらのコストは、全て病院経営に跳ね返ってきます。又、緊急事態宣言以降、病院を訪問する患者数は、明らかに減少しています。医療崩壊には、医療機関の経営崩壊の危機も含まれているように感じています。

 本来、国民皆保険制度は、国民が平等に医療行為を受けることを保証し、最近では、医療機関による診療行為の質のバラツキをも無くす方向で動いてきています。極めて良い制度だと思っておりますが、コロナは、その弱点を突いているように思えてなりません。病院経営の赤字問題の本質を見極めた対応が急がれているように思います。一般企業の経営破綻への対応、それに伴う緊急宣言解除問題もありますが、検査数を増やす、医療崩壊を防ぐ医療体制の確立などは、国民皆保険制度と緊密に関係しています。医療制度の改訂は二年毎に行われ、どのような改定が行われるかについても、中期計画が公表されています。コロナ禍対応の緊急改定を、従来の改訂とは異なる次元で考えることが必要なのではないでしょうか?現官邸お得意の規制緩和名目で、安易に病院による自費負担に関する規制を緩めるという現場任せの施策に流れないことを願うばかりです。

以上