リスクマネジメント 営業雑感No.86

 今回は、世界的には日本人が不得意とされているリスクマネジメントについてお話をします。リスクマネジメントとリスク管理は微妙に違いがあります。どちらかというとリスク管理が狭義の概念で組織運営に限られたものです。リスクマネジメントは欧米では独立した学術分野で、リスクマネジメントの産物として地球温暖化対策や捕鯨禁止等の種の保存に関する動きが発生し、その取決めにも色濃く反映されています。

 リスクマネジメントもリスク管理も、手法としては同じところからスタートします。第一歩は、想定されるリスクの洗い出しです。実は、この段階で日本人は、その歴史的背景と地理的特徴から欧米各国に遅れをとります。つまり、国民は、ほぼ同一民族であり、他民族から征服支配された経験を持たないという特徴です。従って、リスクの洗い出しに際し、同一民族共通の不文律の前提条件がある為に、全てを事細かく列記することが不得手です。この不文律の前提条件というのが、山本七平著「空気の研究」に代表されるその場の空気や柳田邦夫著「遠野物語」の地方毎の慣習を含めた社会常識という行動規範の存在です。

 一方、世界でリスクマネジメントが最も進んでいるのはイギリスです。イギリスは征服国家群を英連邦として運営してきたことから、民族間の常識の違いや気候の違いまでも含めてリスクを洗い出します。その結果、有名な「征服すれど、統治せず」が制定されました。つまり、日本人は一つの事を考える時に、結果的に限定された範囲のリスクしか洗い出しません。そのいい例が原発規制によく顕れていました。世界最高水準の規定といっていましたが、世界の最高気温や最大風速、最大震度などを想定して基準化しているのではなく、設置を国内に限定した立地条件や、各国がこれまでに出している基準に対して世界最高といっているだけでしたから、事故後は、想定外というばかりです。新しい規定では、世界最高レベルという曖昧な表現になりました。海外では誰も世界最高とは思っていません。何故なら、リスクマネジメントの概念での世界最高とは、地域や時代に係わらず世界最高のリスクを想定した基準のみが世界最高だからです。その中には、侵略占拠や爆破テロも想定されていなければなりません。以前、北朝鮮の僅かな在日部隊に原発が占有され、日本国が支配されかけるという小説があり、日本人はリスクの洗い出しについて、もう一歩踏み込む訓練の必要性を訴えていたことを思い出します。

 前置きが長くなりましたが、リスク管理において最大の決定事項が契約です。契約条項の規定が狭義のリスクマネジメントであるリスク管理の全てといっても過言ではありません。ところが、契約のリスクマネジメントを大幅に省略することを容認させているような以下の条項が、我が国では一般的に殆どの契約で使われています。

「本契約に疑義が生じた場合は、お互いが誠意をもって協議するものとする。」

 世界的には国内においても異民族間での契約が当然ですので、上記のような条項はなく、契約の疑義については全て係争を想定し、それを争う国及び担当裁判所が明記されています。つまり、どこの国の法律に従って疑義を法定判断するかが明記されています。最近は日本でもこの係争担当裁判所が明記されるようになってきました。場所を指定するのは高額な裁判費用の削減が狙いです。自社に有利な場所を指定するということです。

 契約の際のリスクマネジメントに関して、もう一つ日本人を縛っている概念が「和を以て尊しと為す」という十七条憲法の第一条です。契約条項に現実には有り得ないような状況を想定した条項を入れることを悪とまでは言いませんが、和を乱す礼儀知らず的に見る傾向があります。従って、日本の契約書は薄いというのが一般的です。同じ契約内容でも海外資本の会社の契約書は、日本の5倍~10倍の厚さがあります。又、我が国の多くの弁護士の中で国際法や各国の法律に詳しい方は、未だ少ないのが現状です。30年ほど前の話になりますが、長年の提案活動の結果、やっとのことに海外資本の会社と初めて契約をすることが決定しました。ところが、契約条件の読み合わせの席に、先方の海外の顧問弁護士さんが窓口として出席されて、営業や支店総務では太刀打ち出来ず、もの凄く苦労をしたことを思い出します。結局、こちらも顧問弁護士をたてたのですが、契約条項を決めるのに数か月かかり、最終的には納期を半年遅らせることになりました。情報システム部に反旗を翻し採用に尽力して頂いたお客様の現場からは、こんなことなら情シスの推薦する従前の海外メーカと契約すれば良かったと散々嫌味を頂戴しました。

 最近は、ネット購買で、個人でも海外の企業と契約することが増えました。それについては、次回、お話ししたいと思います。

以上

2020年3月22日 | カテゴリー : 商い, 営業 | 投稿者 : csf-ishii